最近アップリンク渋谷が閉館したり悲しい映画的ニュースが多く心配ですがやはり映画は劇場で観るのが一番ですね、、、
東京の映画館もいち早く再開することを願っております。。
さて、先月第93回アカデミー賞が発表されましたね。アンソニー・ホプキンスが史上最高齢で主演男優賞を受賞したことでも話題になった「ファーザー」を観てきました!
さすがのアンソニー・ホプキンスの名演技。恐れ入りました。オリヴィア・コールマンもとても良かった!
ちなみに、作品賞を取った「ノマドランド」はもちろん良作ではありましたが、作品賞としては物足りない印象でした・・・
みなさんはいかがだったでしょうか。
あらすじ
ロンドンで独り暮らしを送る81歳のアンソニーは記憶が薄れ始めていたが、娘のアンが手配する介護人を拒否していた。そんな中、アンから新しい恋人とパリで暮らすと告げられショックを受ける。だが、それが事実なら、アンソニーの自宅に突然現れ、アンと結婚して10年以上になると語る、この見知らぬ男は誰だ? なぜ彼はここが自分とアンの家だと主張するのか? ひょっとして財産を奪う気か? そして、アンソニーのもう一人の娘、最愛のルーシーはどこに消えたのか? 現実と幻想の境界が崩れていく中、最後にアンソニーがたどり着いた〈真実〉とは――?(HPより)
以下、ネタバレ含みます
(1)認知症目線のストーリー展開
この映画の最大の特徴は基本的に「認知症の人」目線でストーリーが展開されていくところです。全編に渡ってどこかしらの部屋の中で物語は進み、最初のシーンでは娘のアンとの何の変哲もない日常会話がされています。
しかし、次のシーンになるとアンが別れたと言っていた夫のポールが自分の部屋でくつろいでいます。自室でくつろぐ見知らぬ男を見たアンソニーはめちゃくちゃ驚きます。
そして観ている観客もめちゃくちゃ驚きます。アンソニーと全く同じ感想で「いや誰だよ!?」となります。自分の家に知らない中年男が新聞読んでゆったりしてたら誰だってビビりますよね。
アンの夫だと語る男と話すものの理解が追いつかない様子のアンソニー。やっとのところでアンが帰ってきてくれますが、ホッとしたのも束の間、帰ってきたのはアンではない見知らぬ女だったのです。
それを見たアンソニーはまたも驚愕の表情。見知らぬ男女が自分の家で当たり前のように生活している様子になんとか自分を落ち着けるアンソニー。しかし買ってきたチキンを調理しに行った見知らぬ男はいつの間にか家から跡形もなく消えていて、男自体も曖昧な存在だったことに気付かされます。
観客もアンソニーと同じ目線で物語を追うことで、認知症患者の目線を追体験できるような工夫がされているところが新しいなと思いました。
その後の展開もアンの夫と名乗る新たな男が登場し、気に入っていた介護士も誰が誰だか分からなくなっていくアンソニー。計算され尽くしたミスリードでラストまで観客側も真相が分からず秀逸でした。
画面の中で起こっていることが、何が本当で何が嘘なのか、観ている側も訳が分からなくなり、どの顔が本当の娘で夫なのか、それすらも混乱させられる見事な演出でした。
(2)驚愕のサスペンス演出
本作は刑事が出てくるわけでも、殺人が起こるわけでもなく、ひたすら父と娘の日常を描いています。なのに劇中はドキドキハラハラするようなサスペンス風に演出されています。
特に大きな事件が起こるわけでもないのに終始緊張感のある展開でした。
アンソニーの病状は物語が進むにつれ悪化し、アンの自宅介護だけでは収拾がつかなくなり、結果的に父親を老人ホームへ入れる選択をするまでの物語。ストーリー的にはごくあり触れた家族の物語なのです。
なのに100分の上映時間中、全く飽きずに見ていられるのは、このサスペンス要素が大きく起因している気がしています。
音楽と演出、役者の演技だけで普通の日常をここまで恐ろしく見せることができるのかと、脚本や演出の巧みさに驚きました。
普通の物語をサスペンス風に撮影するのに、かなりお手本となる作品なんじゃないかと思います。
脚本や演出だけでなく、実はカメラも無機質で寒いニュアンスで終始撮影されており、サスペンス映画の色調をしっかり意識して作られているところも素晴らしいです。
サスペンス演出で特に注目したのは、アンソニーがアンやポールと言い争ったり、罵られているとき、画面がアンソニーの顔に徐々にクローズアップしていき、ヨリのまま喧嘩のシーンを描いています。通常喧嘩のシーンであればバストショットか引きの画で二人か三人での喧嘩シーンを見せます。ですが、本作はアンソニーの表情を特にしっかりと時間を取って見せ、アンたちの声が画面の外から聞こえてくるように演出しているのです。
それによって観客もアンソニーと同じく錯乱状態に入り、周りが見えなくなる感覚を共有することができます。アンソニーにとっては何が真実か分からない状態で言い合いになっていくので不安で仕方ないはずです。
(3)認知症という恐怖
映画のテーマでもある「認知症」という病気は、誰しもが今後経験する可能性のある病気だと思います。それは自分自身が認知症になってしまうかもしれないだけでなく、自分たちの親たちが認知症になり老後の世話をしていく可能性だって十分あるのです。
日本では少子高齢化が進み、特に今後高齢の方と接する機会や介護の機会がすぐに訪れるかもしれません。
そんな誰しもが抱える認知症という問題を「周りの人々」の視点ではなく、認知症患者本人の視点から語られる物語がこの「ファーザー」という作品でした。
フロリアン・ゼレール監督もインタビューで度々認知症を自分自身の問題と思ってほしい、と語っています。
ラストでアンソニーが遂に老人ホームに入っている現実に気づいたとき、戸惑いを隠せず涙を流します。幼ない子供のように女性介護スタッフに抱きつき、「ママ!」と母親を求め号泣するシーンはそれまでアンソニー目線で物語を追っていたからこそ、心にグッと迫るものがありました。
アンの目線からこのシーンを見ていたら可哀そう。。くらいの安易な感想で終わっていたかもしれませんが、結果的には自分自身のような体験としてリアルに捉えることができました。
まとめ
「ファーザー」は家族の物語でもあります。
病気を抱えてしまった父と娘、そして家族たち。現実と向き合いながら何が最善策なのか考え抜くことが大切ですよね。
例え老人ホームという最後の選択肢になったとしても親子の愛が消えるわけではないのですから。
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