映画「バービー」ネタバレ考察感想 ドラマチックで徹底的にシニカル。性別を超えた自意識を問いかける感動大作

Uncategorized
Pocket

情報解禁からずっと観たかった『バービー』がついに日本公開!公開日に早速観に行ってきました!しかし、本作は公開前に「バーベンハイマー」というネットミームによって変な広がり方をしてしまった不運な作品でもあります。

とはいえ当たり前ですが、作品の内容としては「バーベンハイマー」や原爆とは一切関係のない物語です。アメリカにて同日公開された『オッペンハイマー』との変なコラボがネット民によって盛り上がってしまったのは残念な出来事でした。

ただし、この『バービー』、想像を遥かに超えたシニカルな内容で本当に面白かった!男女関係なく楽しめる一作です。
それにしてもマーゴット・ロビーが美しくてそれだけでも眼が潤いました〜〜

鑑賞オススメ点数・・・75点

あらすじ

すべてが完璧で今日も明日も明後日も《夢》のような毎日が続くバービーランド! バービーとボーイフレンド? のケンが連日繰り広げるのはパーティー、ドライブ、サーフィン。
しかし、ある日突然バービーの身体に異変が! 原因を探るために人間の世界へ行く2人。しかし、そこはバービーランドとはすべて勝手が違う現実の世界、行く先々で大騒動を巻き起こすことに─?!
彼女たちにとって完璧とは程遠い人間の世界で知った驚きの〈世界の秘密〉とは? そして彼女が選んだ道とは─?(HPから抜粋)

以下、ネタバレ含みます。

(1)ずっと観ていたいバービーランドの魅力的なデザイン

まず、本作の最も魅力的なところはバービーランドの圧倒的に可愛くてずっと観ていたくなるアートデザインだと思います。

ピンクとパステルカラーのみで作り上げられたバービーランドのセットを構築した時点で、本作の勝ちはほぼ確定していたのではないでしょうか。
それだけ見応えがありましたし、来年のアカデミー賞の美術賞ノミネートは間違いないと予想します。

やはり何歳になってもおもちゃの世界の再現や、作り込まれたセットはそれだけで興奮できますよね〜

そしてそんな現実離れした世界観にマッチする俳優って、なかなかいないんじゃないでしょうか。その点、マーゴット・ロビーのバービーは完璧でした!コロコロ変わる表情、どんな衣装も着こなすスーパースタイル、そして顔面の美しさ・・・それだけで本作を観る価値があると断言できます!

バービー役って他に誰ができるんだろう?と考えてみたらエマ・ストーンも良さそうですよね。ただ、表現力と破壊力、オーラという点ではマーゴット・ロビーが適役だったと言えそうです。

ケン役のライアン・ゴズリングもめっちゃハマり役でした。無駄に筋肉ムキムキで空気の読めないアホなキャラクターが最高に笑えました(笑)

(2)現代社会を冷ややかに見つめる秀逸な脚本と演出。徹底的に描くシニカルな描写とオマージュが見逃せない

『2001年宇宙の旅』の名シーンのオマージュから本作は始まります。あの名曲とともに始まる少女のバービー発見のシーンはいきなり心を掴まれました。冒頭1分で観客の心を持っていったと思います。憎い演出でした。

アメリカで公開される前は予告編の描き方からも、単なるバービーにまつわる可愛い物語なのだと思っていたのは僕だけではないはずです。

アメリカのレビューが海を超えて聞こえてくると、どうやらそうではなく、かなり社会問題を孕んだ作品なのだと分かりました。実際鑑賞すると、徹底的なシニカルな描写の連打が止まりません。あまりに皮肉なシーンが多く劇場内も大爆笑に包まれていました。

バービーの世界と人間の世界を鏡合わせにした秀逸な設定と見せ方は、本作の重要性を物語っています。『バービー』の世界では女性が主導権を握り、男性キャラやケンは完全にバービーや女性キャラの付属品のような存在として登場します。

男性キャラは女性キャラを見つめて恋が実るように夢焦がれるだけで、主体的に動く心がありません。ケンは、実際のおもちゃでもバービーの付属品のような立ち位置ですが、これを人間が演じると物凄く不気味に感じるのです。なぜなら、その世界観は誰しも身に覚えのある光景だからです。

『バービー』で描かれる、一方の性別が強い世界観というのは、完全に男女を逆転させたリアルな人間世界にそっくりなのです。今でこそ女性の立場が確立されてきてはいますが、ひと昔前までは圧倒的な男性至上主義でした。

ただし、本作は現代でさえ全く女性の地位は向上されていないじゃないか、とバービーの目線を通して社会に問いかけます。

これが本作の大きなテーマの一つでした。しかし、本作の問題提起はフェミニズムの問題では収まりません。さらに大きなテーマが後半になるにつれて表出されていくので(3)で後述しようと思います。

バービーが人間界に初めて行った時、サーシャという少女から「バービーはセクシャルな見た目でフェミニズムを50年は衰退させた。みんなバービーが嫌い」と言われてしまいます。バービーのスタイル抜群でセクシーな服装が、女性はセクシーでスタイル良くいるべきだ、という固定観念を生み出すキッカケになってしまったと語ります。

この冷ややかな視線こそが、本作を作る上での最初の疑問なのだと思います。

現実世界でバービーを作っている「マテル社」もかなりシニカルな描かれ方をしていましたね。少女たちの夢や憧れを、女性の人形を通して訴えている会社の役員に男性が誰もいない。そんな時代遅れで女性進出ができていない現状を皮肉と笑いたっぷりに描いていました。

劇場は笑いに包まれましたが、役員に女性が一人もいないというのは日本の大企業のそこら中が該当しているのではないでしょうか。マテル社の構造からも現代社会の問題が炙り出されていきます。

さらに言うと、男性が映画や政治、株、車について語り、女性に教えたがるという構造の皮肉の破壊力は凄かったですね。笑えるんだけど、男性はこのシーンでドキッとした人も多いはず。自分も気をつけないと。。。(汗)

しかし、本作の秀逸なところはこれらの重たくなりがちなフェミニズムや男性至上主義を重く描かず、全てコメディタッチで描いているところです。誰でも共感でき軽い気持ちで観ることが可能で、気づきが与えられる。
グレタ・ガーウィグ監督の狙いは今回のテーマを重々しく描かず、万人に観てもらえるような映画を目指したはずです。

(3)バービーとは、ケンとは何か。自意識を巡る物語

前半・中盤でフェミニズムを描いてきた本作の様相は少し雰囲気を変えていきます。

後半になるにつれて、そのテーマはさらに哲学的な深淵へと向かっていき、バービーとは何か、ケンとは何か、女性の役割とは?男性の役割とは?さらに、人間が人間であるがための自意識とは何か?自分を自分たらしめる要素とは何か?という一作の映画では、回収しきれないようなテーマに挑戦していきます。

『バービー』は、バービー人形の視点を通して「自意識を巡る物語」へと変化を遂げていきます。本作が2023年公開映画の中でも重要と言われているのは、この問題提起を行ったことが要因ではないでしょうか。

10年後に本作を見返した時に、2023年の自意識の思考方法が描かれているからです。映画はその時代の人間生活や考え方を反映させる、最適な総合芸術だと思うのです。

バービーが人間界からバービーランドへ戻り、自身の存在意義が不透明になっている時、人間側の母・グローリアがバービーへ女性の役割や、バービーという固定観念に囚われるのではなく、自分がありたい自分でいることが重要だという演説を長尺で行います。

グローリアの説得によってバービーは自意識が芽生え、私は存在してもいいんだ、と思えるようになります。バービーが自意識に目覚めるシーンは感動的でしたし、ケンや男性キャラ同士の戦争シーンも最高でした。

ラスト近く、バービーの生みの親であるハンドラーが急にバービーランドに登場します。
ハンドラーはバービーのように容姿端麗でも、スタイル抜群でもありませんでした。生み親から語られるバービー像はかなりの説得力があります。しかも演じるのは、名優ヘレン・ミレン。そりゃぁ、良いシーンになるわけです(笑)

実際のバービーの生みの親である「ルース・ハンドラー」

ハンドラーとバービーは最後の語り合いを行います。そこで語られるのは、バービーというイメージに囚われずに、あなたらしくいて欲しいということ。

ハンドラーに諭されたバービーの表情は、全ての苦悩から解放されたスッキリとした笑顔でした。

本作は、現実世界を見て、男性中心の世界を目の当たりにし、フェミニズムの権化となってしまったケンやその構造をひっくり返していく物語ではなく、バービーやケンという固定観念に囚われてしまった彼女ら自身が自分の存在意義を発見し直す、という物語だったのです。

(4)ラスト、バービーはなぜ人間界で婦人科へ行ったのか

ハンドラーとの会話を終えた後、バービーはもう一度人間界へ向かいます。本物の人間になろうと決意したバービーは、婦人科で受診するというラストで幕を閉じます。

このシーンには少し疑問が残りますが、婦人科へ向かった意図としては、子供向けのおもちゃでしかなく、自意識のなかったバービーが大人になった証なのだと捉えました。

婦人科=大人の女性が行く場所 だからです。

自分自身の存在を捉え直し、自意識を手に入れたバービーは自らの意思で大人になることを決断したのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。結末については様々な解釈があると思います。
僕は、大人への成長だと解釈しましたが、他にも解釈の仕方は色々とあるかもしれません。

バービーというコンテンツからフェミニズム、そして自意識の再考、というテーマに昇華させた脚本と演出は本当に完成度が高いと思いました。

話題作という以上に、本作は重要な2023年の作品です!

コメント

タイトルとURLをコピーしました