テレビドラマ『アンナチュラル』と『MIU404』の脚本家・野木亜紀子と監督・塚原あゆ子が再びタッグを組んだ今年度邦画の注目作を観てきました!
公開前からの期待通り、痛快なエンタメサスペンスで、鑑賞後はスカッとした気持ちに。
ただのドタバタ劇だけでなく、日本の物流システムに疑問を呈すような社会派な一面もあり、大人から子供まで様々な層で支持がありそうな映画だなと思いました。
鑑賞オススメ点数・・・70点
あらすじ
11月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく――。
巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナは、チームマネージャーの梨本孔と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。
誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか?
残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか?
決して止めることのできない現代社会の生命線 ― 世界に張り巡らされたこの血管を止めずに、いかにして、連続爆破を止めることができるのか?(HPより抜粋)
以下、ネタバレ含みます。
(1)豪華なキャストとユニバース展開がアツい!
今や日本を代表する脚本家・野木亜紀子の名のもとに集結した超豪華なキャスト陣。この映画は主演級のキャストを何人も揃えた時点で勝ち筋が見えていたんだな~というのは窺えます。
満島ひかりと岡田将生の二人を主人公に、別軸でいくつもの舞台が同時に展開されていき、絶妙に物語に絡んでいきます。けれど本筋の「爆弾テロ」という物語を一切邪魔することなく、ファンのテンションを高めていくバランス感覚は流石の野木さんです。
中盤でクライマックスに差し掛かるあたりで、『アンナチュラル』と『MIU404』のキャストとセットそのままに石原さとみやら綾野剛やらの掛け合いが始まります。
複数の物語が同一で絡み合う、まるで『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』のユニバース形式で過去作が絡み合ってくる様子はファンにとっては堪らない演出ですよね!
私は『アンナチュラル』も『MIU404』も観たことがなかったので、登場シーンで興奮はできなかったですが(笑)
アイデアだけ出て権利問題で実現できなさそうな、このような展開を実現まで持っていったTBSとプロデューサー陣は凄い!!
(2)テレビドラマ的な見やすい演出と気になる演出
本作の最大の魅力は「見やすさ」なのかなと思います。さすがテレビドラマを主戦場に腕を磨いてきた塚原あゆ子監督の手腕かなと思いますね。
『ラストマイル』成功の立役者でもある、塚原あゆ子監督は、TBS系列のプロダクションで、テレビドラマでキャリアを積んできた監督です。『重版出来!』『中学聖日記』『下剋上球児』など話題作を数多く手がけているのが印象的ですよね。
今後も『グランメゾン・パリ』や坂元裕二脚本の『1ST KISS ファーストキス』の公開が控えているなど、映画監督としても大注目監督の一人です。
塚原監督の作品の特徴は、とにかくシネフィル的なクセが全くなく、誰もが観やすい映画を作るという感じでしょうか。本作もとにかく見やすい!余計なことを考えずに老人でも子供でも、皆が楽しめる映画だったと思います。
正に「誰でも見やすい」を最重要視するテレビドラマ的な演出術が生きていると思います。
刺激的な展開を求める映画ファンからするとちょっと物足りない感じかもですけどね。。(苦笑)
音楽の使い方も洋画っぽい感じもあって良かったです。冒頭の高速道路を映しながら疾走感のある音楽をつかうところはダニー・ボイル監督風で冒頭から引き込まれました。
邦画の劇中音楽の使わなさは異常ですからね~。私は映画と音数は必ず紐づくと考えている派です。
それから、細かいところで少し気になったことがあって、セリフがちょっとクサいのは意図的なんでしょうか?(笑)実力派の満島ひかりや岡田将生でさえ台本のセリフ感がちょいちょい垣間見えて、そこが気になりました。
あと、劇中でデリファス社の社訓がめっちゃセリフとして出てくるんですが、社訓なんて覚えている社員は現実には誰一人おらんよ!と言うのは突っ込んじゃいました(笑)
最後の展開で社訓の1つがキーになるから、やたらと登場させていたのだと思いますが、それにしても社訓めっちゃ覚えてるじゃん、と(笑)
(3)日本の物流システムに疑問を呈する挑戦的テーマ
本作はAmazonや楽天など、DX化と共に発展したECサービスと現代社会における物流システムの進化、その影響を鋭く描き出すという非常に挑戦的なテーマを扱っていました。特に物流の最終段階である「ラストマイル」に焦点を当て、テクノロジーの進化がもたらす効率性と、それに伴う人間性の喪失をテーマにしています。
映画劇中でも軽く触れられていましたが、物流業界におけるラストマイルとは、「届け先との最後の接点」のことを指します。 直訳すると最後の1マイルであることから転じて、物品が物流の最終拠点から注文した顧客に届くまでの「区間」を意味する言葉です。
テクノロジーの発展により、超効率化を追求する現代社会の中で、物流の自動化やAI技術の進化がもたらす利便性と、その影響で失われる人間性や地域社会の繋がりについて、思考を巡らせるような、結構深い問題を追及していく構成になっていました。
映画の舞台となる巨大倉庫も東京都心ではなく、少し外れた地域になっていたのもその理由の1つかもしれません。
主人公エレナ(満島ひかり)と梨本(岡田将生)が勤める世界的企業・デリファス社を舞台に描かれる今回の物流システムは、テクノロジーの進化によって効率化が極限まで進められている様子がエレナたちの自慢げな説明でされていきます。
ですが、爆弾事件と事件を画策した犯人・そしてその恋人の知られざる屈辱の過去によって、テクノロジーの進化と同時に人間性の喪失、長時間労働による社員の切り捨てが問題であることを強調しています。
脚本と演出によってエレナやトラックドライバーが犯人であるかのような、ミスディレクションは見事でしたが、結局、エレナも本作では巻き込まれ型の主人公であることが分かります。デリファス社に心をズタズタにされた犯人との接触により、デリファス社のエリート社員だったエレナが、人間性の喪失とデリファス社の危うい産業構造に気づき、全力で抗っていく物語なのです。
大企業に立ち向かっていく覚悟を決めたときの、エレナと梨本の一連のシーンは、爽快感がたまりませんでした!
普段、私たちが何気なく使っている便利なAmazonなどが、経済的な観点から多くの利点がある一方で、社会的・人間的な観点からはさまざまな課題を孕んでいたことが映し出されます。『ラストマイル』は、技術の進化が本当に人々の生活を豊かにしているのか、それとも労働者にとって賃金減少、顔の見えない配送員への敬意が無くなることで、暮らしにくくしているのではないかという問いを強烈に投げかけています。
ラストでは自らの役割を全うしたエレナは、デリファス社の上層部を交渉のテーブルにつかせ、1商品の配送で20円の値上げをすることに成功しました。たかが20円、されど20円、企業側からしたら莫大な原価の値上げと売上の損失です。
下請けから上流の企業へストライキを起こし、値上げを成功させるのがどれほど困難か、ビジネスマンなら誰もが分かることでしょう。
この一歩が現代社会の物流業界で、明るい未来に繋がれば良いですよね。
ラストカットもとても印象的でした。渋谷のスクランブル交差点を俯瞰で映し、ネットで商品を購入する人々。手軽にポチっとスマホを操作して商品が明日には届く、その裏では数々の配送業者とトラックドライバーがいることを忘れてはいけないですよね。教訓です。
まとめ
物流システムをテーマに据えたところも非常に面白く、エンタメとしての完成度も高い。
さらに野木亜紀子作品ならではの、他ドラマまで登場するエンタメ要素テンコ盛りな映画でしたが、すごく良くまとまっていて128分でしっかりまとめきったな、という印象です。
事件を解決させていく様子も観ていてワクワクしましたし、今後の野木脚本作品、塚原監督作品もチェックしていきたいと思います!
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